第三話
判が下りる
見られないまま、認められる。
『兎サムライ』第三話の公式案内ページ。兎蔵の一家は犬村の城門前へ。買った一枚の文書と、最後まで顔を上げない書役。本編はXで公開中です。
あらすじ
犬村の城門前。城壁の外から続く列に、兎蔵の一家は並んでいる。長い耳と、体に合わない古びた具足——犬たちの列のなかで、その姿は隠しようがない。
順番が近づく。番所の書役は、前の一戸の文書をめくり、判を捺し、通す。その間、一度も顔を上げない。執法隊の犬は人を見るが、紙は見ない。兎妻は懐の文書を押さえ、兎娘は番所の窓を見て、兎息子は木彫りの侍を抱えて刀の構えを真似る。兎蔵は具足の紐を直し、言うべきことを胸のなかで並べている。
兎蔵は備えていた。腰の折れた太刀に視線が向けば、「抜くなら、日を改める」と答え、柄を押さえて身体をひらく——その所作まで決めてあった。だが、誰も受けない。問い返しも、抜けという催促もない。彼の芝居には観客がいなかった。
決めたのは、買った一枚の紙だった。書役の手が文面をたどり、そこに書かれた名——「兎蔵」を確かめ、朱の判が落ちる。「兎蔵。通れ」。そして「次」。顔は、最後まで上がらない。
門が開く。一家は門をくぐり、犬村の通りへ入っていく。兎息子が先を駆け、兎蔵は胸を張り、「犬村公認の侍だ」と言う。第一話の自称は、ここで他称に変わった。振り返ったのは兎娘だけだった。通りの端には、壁のなかで育ちはじめた声の痕跡が残っている。彼らはまだ、それを見ていない。